JR鶴見線をご存知ですか?
京浜東北線の鶴見駅を起点に、いくつもの支線を持つちょっと変わった路線です。
臨海工業地帯に密集する工場の貨物輸送や通勤のために作られました。
開通は1926年3月と言いますから、ちょうど大正時代最後の年。
ずいぶん長い歴史を持つ鉄道です。
この鶴見線にかなりユニークな駅があります。
実はこの駅、東芝の工場の敷地内にあり、改札から先は私有地になり関係者以外は出入りができません。
鉄道自体は公共のものですから誰でも乗れますし、ホームに降りることはできますが、駅からは許可なく一歩も出られないのです。
(改札の前に交通ICカードの簡易読み取り機があり、一般の人はこれで乗降のタッチをします。)
なんとも不思議な駅ですが、とても魅力的な一面も持っています。
ホームの真横がいきなり海なのです。
海岸線がほぼイコール鉄道のホームといったところ。
かつては到着したら折り返しの電車の出発までホームで待つしかありませんでしたが、平成7年に小さな海芝公園が隣接して開園し、一般の人も利用できるようになりました。
ちょっとだけ行動範囲を広げてくれたというわけです。
ここからの夜景は美しいと評判です(最終電車には注意)。
東京湾の景色が見たくなると、ここを訪れます。
そしてもうひとつの目的があります。
海芝浦駅は鶴見線の本線にある浅野駅からの支線の終点です。
起点の浅野駅の周辺は沖縄にルーツを持つ方たちが大勢暮らし、リトル沖縄とも呼ばれています。
高度成長期、京浜工業地帯が必要とした労働力として、多くの沖縄の人たちがこの近辺に移住してきました。
現在は2世、3世にまで繋がっています。
リトル沖縄といっても華やかな場所はありません。
基本はのんびりした住宅地で、ひなびた仲通りという短い商店街がひとつ。
そこに多くはありませんが沖縄料理の食堂や沖縄そばの店、沖縄物産を扱う店などが点在しています。
その中のひとつのお店。
私がこれまで食べた中でも最高においしい沖縄そばです。
私は縁があって沖縄のずいぶん多くの島々を訪れ、何度となく沖縄そばを食べ、また沖縄を愛するあまり関東の沖縄そば屋も食べ歩きました。
その中でもトップクラスの美味さです。
本場の沖縄そばは素朴で実においしいものです。
ただ、「なんくるないさ」と細かいことにこだわらない島人気質もあるのでしょう。
どこか大雑把で、それが良いところでもあったりするのですが、何かがちょっとだけ足りないことが多いです。
しかし、この店の沖縄そばはのど越しツルツルで、スープはお出汁たっぷりで濃厚なれどさっぱりとしている。
そばに載せるソーキや三枚肉はびっくりするほどやわらか。
完ぺきです。
感動します。
2~3杯は軽くいけます。
そして近年は別の面も持つようになりました。
ブラジルタウンとしての顔です。
実は沖縄とブラジルには深い関係があります。
ブラジルの日系1世には沖縄出身者が少なくありません。
そのルーツを伝手に、この近辺の工場の労働者として移住してきたブラジル人が暮らすようになったそうです。
商店街にあるブラジルスーパーの中はもはや異国。
売られている物、店員さんと買い物客、奥のフードコーナーで出されている食事とそこに集う人たち、流れる音楽…すべてがブラジルそのもの。
ここまでくると私たちが異邦人です。
ここはどこ?と、なんとも不思議な気持ちになります。
近くには南米料理を出すレストランなども数軒あります。
日本ではあまり馴染みのない料理ですが、ダイナミックな見た目と違ってしつこくなくおいしいです。
鶴見線に乗って、東京湾を眺めて、沖縄そばを食べて、ちょっとだけブラジル情緒を味わう。
日中や週末は運行本数の少ない路線ですので、あらかじめ時刻を調べておく必要はありますが、半日もあれば十分楽しめるユニークな散歩コースです。