先日、上野の森美術館のブータン展へ行ってきました。
(東京の展示はすでに終了。これから来年にかけては各地を巡回するようです)
ブータンは最近旅した中でも、とても気に入った国のひとつです。
旅の途中で運良く遭遇できた祭りで見たチャム(宗教的な仮面舞踏)のお面などの展示があり、楽しかった時間を懐かしく思い出して過ごしました。
ミュージアムショップには、現地で食べてとてもおいしかったチーズが売られていて、迷うことなく購入して帰りました。
行く前には世界一辛いと脅されていた食事は、むしろ何もかもがおいしく、それはほとんどが国内産というとても新鮮な野菜のおかげでした。
とくにチーズと合わせたサラダのような料理のいくつかが忘れられません。
さっそく家に帰って似たようなものを作って食べました。
もちろんまったく同じにはなりませんでしたが、気持ちはブータンです。
豊かな自然、とりわけ『水』の印象が強烈に残っています。
この国が国際社会では特異な存在でありながら、現状を維持していられるのは、ヒマラヤ山脈からの豊富な雪解け水の恵みがあってこそでした。
山々の合間には、まるで青い絵の具を溶かしたかのようにキレイな色をした渓流がいくつも流れています。
それがゆったりと流れを変えるあたりには、静かな村や色鮮やかなチベット仏教寺院が佇みます。
1年を通じてさまざまな作物ができるのも、絵のように美しい田園風景を作り出すのも、その風土や伝統を守っているのもまた水。
近年は水力発電による電気の輸出が経済を支えてもいます。
そして、それが人々の穏やかさを作り出す源となっていることもわかりました。
ブータンは濃密な仏教空間が水に包まれて広がる小宇宙でした。
幸福の国と呼ばれるブータンも、急激に変わっていこうとしていました。
初めて訪れる旅人にさえ、それははっきりとわかります。
建設ラッシュはあちらこちらにあり、人々の暮らしに出ている変化も強く感じます。
価値観は多様化し始めていて、必ずしも伝統的な生活だけが大切にされているわけではありません。
すでに首都ティンプーや空港のあるパロといった町と、地方の暮らしには大きな違いがあり、貧富の差のようなものも広がっているようでした。
しかし、価値観の違いも自然に受け入れられる心の豊かさは誰からも感じることができ、それがきっとこれから起こりうる大きな問題を乗り越える鍵となるような気がしました。
ブータンを幸福の国と言い切れるほど知ることができたわけではありませんが、少なくとも『幸福とは何かということを真摯に考えさせてくれる国』であるのは間違いないと思います。
旅はとてもしやすい国です。
少々お金はかかりますが、これはブータン政府が旅行者に対し1人1日当たり200~290USドルの公定料金を設けているためです(時期や人数で異なります。学生割引などもあります)。
完全な自由旅行はできず、この最低金額からあらかじめ手配をしておかねばなりません。
しかし、オールインクルージブのリゾートやクルーズ船と同じく、宿泊費、食事代、国内移動費が込みで、さらにはツアーガイドの費用や、トレッキングをする場合はキャンプ設備と運搬代まで含まれます。
ホテルのランクを上げたり、日本語ガイドに限定したりと、特別なリクエストをすれば追加がかかりますが、現地ではお土産代くらいしか必要ないので、単に高いといったものでもありません。
治安はとてもよく、高地ながら意外にも気候は穏やかです。
私が旅したのは真冬でしたが、さすがに朝晩の冷え込みは厳しいものの、日中は日差しに暖かさも感じられました。
食べ物も確かに辛いものはとても辛いですが、野菜をメインに素材の味を活かした料理が多く、日本人には合うように思えます。
英語がよく通じ、いろいろな場所で、いろいろな人々と、いろいろなことを話せる機会が多いのも魅力でした。
学校教育は国語の授業以外は英語で行われているそうです。
都会の人たちの英語はたいへんに流ちょうですし、田舎に行ってもカタコトで話せる人がほとんどでした。
これには、公用語のゾンカ語が実は西の一部地域でしか通用せず、共通語として英語が必要という事情もあるようです。
語学力のおかげで海外留学へ出る人も増えているそうですが、しかしそれが単に人材の流出に繋がるかと言えばそうでもなく、国へ戻って働く人が多いそうです。
この国の未来には希望が持てます。
今の日本人にはうらやましい限りです。
まだまだ多くのことを考えさせてくれた国です。
伝えたいと思ったことも多く、ブータンの旅の話はあらためて写真とともに紹介したいと思います。
私がブータンへ旅したきっかけは、古くからの友人がブータン旅行の専門店の代表であることからでした。
小規模ながらも代表自ら国の隅々、奥深くまで足を運んでいて、知識と経験の豊富な会社です。
冬の旅にはわざわざ電気毛布を用意して、各宿泊場所のベッドに敷いてくれるという細かな気遣いもしてくれました。
こういうある意味特殊な国への旅は、大手などよりも専門旅行会社を選ぶほうが正解です。
興味があったらホームページを覗いてみてください。