<散歩メモ> あの夏に思いをはせて歩く基地の町・福生

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大学時代のある日、教授から「君をモチーフに論文を書いたよ」と小冊子を渡されました。

それは核と安保を考えるシンポジウムのためのもので、タイトルは『アメリカ!アメリカ!アメリカ!』でした。

私は亡き父が齢を重ねてから生まれた子供です。
婚期が遅れたのは軍人であったためです。
開戦時20歳だった父は、青春時代のほとんどを戦争で過ごしました。
終戦を迎えたのはビルマ(現在のミャンマー)。
あのインパール作戦参加の一隊であり、人生の最期まで後遺症に悩まされることとなる生死をさ迷うほどの大怪我もしていて、よくぞ生きて帰ったものだと思います。

近所の同じ世代で祖父が戦争に行ったという子はたくさんいましたが、父親が軍人だったのは私と弟の兄弟だけでした。
思い出したくないことも多いようで、戦争体験のことを私たちに積極的に話すことはありませんでしたが、ときおり戦友たちが訪ねてくることがありました。
片足のない人であったり、腕がない人であったり、彼らが来ると体験のない私でも戦争の匂いを感じ、不安に似た複雑な気持ちを抱いたものです。

父の口癖は「戦争は絶対にだめだ。お前たちは平和を守らないといけない」でした。
ところが、戦友がやってくると、戦闘中の勇ましい体験の褒め合いや、訪れた南の国を懐かしむような話で盛り上がっていることが多々ありました。
アメリカを『敵』と表現するようなこともあり、聞いていると何だか悲しくなったりしました。
手足のない人を見た近所の子供たちにからかわれ、いじめられる原因にもなっていたこともあって、私は父の戦友がやってくる日が嫌いでした。
しかし、戦争すら彼らの青春、というより青春が戦争でしかなかっただけなのだと、その状況下で築かれた友情だったからこそ堅固なものだったのだと、だからそれは仕方のないことだったのだと、大人になってから気づきました。
父の戦友たちはみな優しくいい人で、孫のような私たち兄弟をとてもかわいがってくれました。
昔気質のあまりに厳し過ぎる人ではありましたが、父のことはもちろん大好きでした。

そんな環境の中で、心の奥底に刷り込まれていたものもあったのでしょう。
私はどうやらアメリカが嫌いでした。
父に傷を負わせた憎い存在のように感じていたのかもしれません。

一方で世はアメリカ文化が台頭していた時代。
音楽もファッションもライフスタイルもカルチャーも、何もかもがアメリカからやってきていて、それに追いつくことがオシャレでした。
バブル期に思春期を迎え、そういうものにも私は敏感でした。
聞き取れもしないFEN(在日米軍向け英語ラジオ放送)を流し続ける一方、反戦ミュージカル映画『HAIR』に感動し夢中になる。
どうしようもなくアメリカに対してアンビバレンツな存在でした。

教授の論文というのは、そんな私のあり方を、当時の国のあり方に重ね、日本とアメリカの現状と未来を考察したものでした。
一緒に飲みに行ってくれるような気さくな教授で、ときに熱い会話もしてくれてはいましたが、あまりにも的確に私の深層心理を突いていて驚いたことを覚えています。

 

前置きが長くなってしまいました。

そんな私が学生時代からたびたび訪れている町がアメリカ空軍横田基地のある福生です。

村上龍の処女作『限りなく透明に近いブルー』の舞台にもなり、そのどこか廃頽的かつ刹那的な世界に魅かれていました。
ただ、そうした雰囲気にファッション的にのめり込む一方で、朝鮮戦争では出撃基地として、ベトナム戦争でも積極的に使われていた過去も知っていて、ここが多くの人の命を奪う拠点になってしまっていたという強い嫌悪感も持っていました。
本当にどうしようもなくアンビバレンツだったのです。

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あれから時代は流れ、福生の町も変わりました。

基地の滑走路に沿って南北に走るメインストリートの国道16号線沿いは、アメリカンテイストな雰囲気を楽しもうと若いカップルや家族連れなども見かけるようになっています。
沖縄のコザなどとは異なり、いわゆる歓楽街が完全に分離していたこともあるのでしょう(そういう場所はJR福生駅の近くにあります)、以前と異なりすいぶん健全になりました。
都内にありながら異国散歩が楽しめるスポットとして注目されています。

 

JR青梅線の拝島駅から北に向かって案内してみます。

駅を出て玉川上水にかかる橋を渡れば、すぐに国道16号線とぶつかります。
ここにあるセブンイレブンは必見。
コンビニながら国道16号線や基地に関連した「福生オリジナルグッズ」が近辺でも随一充実しているんです。

その右手奥には高い塀に囲まれた基地をすでに見ることができます。
塀はしばらくして道路の右にずーっと続くようになり、つまりは店舗や民家があるのは左側だけとなります。
初めてでもとてもわかりやすいです。

3分も歩くと駐車場のある白い建物が現れてきます。

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アメリカといえばハンバーガー。
そして福生でハンバーガーと言えばこの『DEMODE DINER(デモデダイナー)』なのです。

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そのビッグなサイズはさすがアメリカン。
大きなパテはジューシーで、1個で十分満腹になります。
種類も豊富、味もまた絶品で、どこにでもあるチェーン店のものとは完全に一線を画します。
というか、まったく別のものかもしれません。
名物にはパテを4枚900g分も使って、高さ30センチにもなる『ビッグタワーバーガー5100円』というものがあるようですが、まだ頼んだことも、残念ながら見たこともありません。
とにかく、ここでランチを取れるように行くのが私の定番ルートです。

DEMODE DINERから先、JR八高線東福生駅あたりまでの約2キロの16号線沿いには、洋服や雑貨を売る店、ケーキやベーグルなどの洋菓子店、さらに洋食から中華、イタリアン、タイ料理までさまざまなレストランも点在します。
商店街のようにびっしり建ち並んでいるのではなく、ほどよい距離感で点々とあり、しかも左側だけなので、順番に1軒1軒くまなく覗いていくこともできてしまいます。

ファッション関係のショップは当然ながらアメカジがほとんどで、私にはもはや全身揃えはできません(したくありません)が、ポップだけどキレイめに着られるシャツなども見つけられるので、ついつい買ってしまうことも多いです。

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基地の町らしく、米軍から卸されたミリタリーグッズの店などもありますが、なかなか良い値段が付いていて、その魅力もよくわからないので、いつも見学だけさせてもらっています。

福生市は町おこしとして、ここを『ルート16(Route16)』の愛称で売り出しており、町を『FUSSA』と表記して、いかにもアメリカンテイストなロゴも作っています。
いろんな店舗で『ルート16』グッズを売っていたりして、Tシャツやトートバッグなどはなかなかオシャレで値段も手ごろなので、ちょっとクールな普段使いができるのでおすすめです。

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必ず立ち寄りたいのが『ブルーシール』。
沖縄の米軍基地で生まれ、沖縄で育ったアイスクリーム店で、専門のショップは沖縄県以外ではここと羽田空港、国分寺、池袋にしかありません(シーズンのみガーラ湯沢もあり)。
本土ではなかなかお目にかかれない、まろやかなのに濃厚、でもさっぱりしている味に、沖縄で食べて感動した人も多いかと思います。
小さな店ですが、フレーバーは季節限定も含め沖縄と同様に揃っています。
ちょっとした休憩にぴったりです。
米ドルのキャッシュも使え、さすが米軍基地の町と感心したりもします(DEMODEや他の店でも30軒ほどで可能だそうです)。

国道16号から少し入ったところには米軍ハウスがいくつか残っています。

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米軍ハウスとは、基地の外にあるアメリカ人向けの一軒家の民間賃貸住宅のこと。
かつては基地周辺に整然とたくさん建ち並んでいたそうですが、基地内にハウジングエリアが増えていくとともに需要がなくなっていきました。
70年代からは日本人の若いアーティストが好んで暮らすようになり、その中から有名なミュージシャンや小説家も輩出するようになりました。
村上龍のほか、デザイナー五味太郎、イラストレーター飯野和好、ミュージシャンでは忌野清志郎、大瀧詠一、桑田佳祐、布袋寅泰、バブルガムブラザーズ(その後では福山雅治も)など、なかなかのそうそうたる面々です。
そのムーブメントは『福生幻想』と呼ばれました。
しかし、現在はごく一部にまだ暮らして人がいるものの、残った米軍ハウスは店舗などに転用され、廃墟化するものも出てきて保存活動が行われるほど減っています。
『ふっさハウスを守る会』によって一軒が無料で見学できるようになっています(撮影スタジオとしても使われているもよう)。
場所はちょうどブルーシールの裏手あたりです。
シンプルだけどオシャレなアメリカンライフスタイルが見られます。

 

沖縄、広島、長崎、そして終戦から71年目の暑い夏です。

いまの福生にはリアルなキナ臭さのようなものは感じられません。
しかし、ときおり発着する軍用機(ときには民間航空機も!)の爆音に、ここが今も生きている基地なのだと気づかされます。
陽気で明るいアメリカ文化と背中合わせの歴史や現実の闇。
基地周辺には騒音に苦しんでいる方たちも多いそうです。
そして近ごろ何だかおかしいぞ?と日本は平和の形が変化しつつあるようです。
福生を訪れたら、散歩を楽しみながらも、ぜひ少しだけでもそんな方向にも思いを傾けてもらえるといいなと思います。

だって「今」、せっかく「そういう町」を訪ねるのですから。

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カテゴリー: NO TRAVEL NO LIFE

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